一匹の鮭の物語

今日、郵便受けを見ると、そこに電気料金の明細通知を見付けました。
何気なくそれを見ます。

その瞬間、本気でびっくりしました。

僕は独身男ですので、公共料金は全て低いです。電気代だって、毎月せいぜい2,300円前後でした。
が、今回の料金は、何と3,200円! それは実に、普段の月の1.4倍です!

新しい電化製品も買っていないのに・・・一体、何が起きたのでしょうか?!


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僕は最近、車に乗る時、必ずラジオを聴いています。

理由は簡単ですが、最近ちょっと忙しくて、新聞を読む暇が無いからです。
朝も何かと忙しくて、テレビのニュースも「食事しながら」「歯を磨きながら」「着替えながら」など、「ながら」ばかりなので、全く頭に入りません。
なので、せめて通勤中や仕事での移動中に、その情報を求めている訳です。
(注:ブログを書いてる暇があるなら、その時間に新聞を読めよ! というツッコミは禁止します)

これは今朝の通勤途中、そのラジオから流れて来た話題です。

『石狩川の河口から遡上した一匹の鮭が、愛別町まで辿り着いた』

聞いた瞬間、本気でびっくりしました。何しろ、石狩川の河口から愛別町まで、距離にして実に170㎞もあるのですからね。
これは、マラソンの高橋尚子が全力で走っても、9時間23分06秒もかかる距離です(世界新を出したベルリンマラソンのタイムで計算しました)。

川の水は当然、下に向かって流れています。
それを遡るのは、言うなれば、エスカレーターを逆走している様なもの。
陸上で女子マラソンのトップランナーが9時間以上もかかる距離を、この小さな鮭が、一体どれくらいの日数をかけて登ったのか、想像すら出来ません。

ちなみに、愛別町まで遡上したのは、たった一匹のメスの鮭。
残念ながらその鮭は、卵を産む事無く、息絶えたそうです。
せっかくそんな場所まで行ったのに、本懐を遂げる事が出来ず、可愛そうですよね?

と、そこで思いました。この鮭、一体どんな気持ちでここまで登って行ったのだろう? と。

普通に考えれば、もっと下流で産卵していた筈なのです。だって、そんな遠くまで行ったら、他の鮭がついて来られませんからね。
事実、この一匹のメス鮭は、たった一匹で息絶えていました。本当に孤独に、しかも鮭の本懐である、産卵すらせずに・・・。

書く必要もありませんが、鮭が川を遡上する理由は、子供を作る為です。
ドーキンス進化論的に言えば、自らの遺伝子を後世に残す為。自らのデータを、未来に託す為なのです。
なのにこの鮭はそれを放棄し、他の誰もが途中で挫折した道を、たった一匹で泳ぎ続けました。子供を作る事も放棄し、たった一匹で。


・・・どうして?


僕ならずとも、きっとこのブログを読んで下さった、誰もが思う疑問でしょう。
どうしてその鮭は、周囲の誰もついて来ないのに、たった一匹で登り続けたのか。悲惨な事になるのは目に見えていたのに、どうしてそれを行ったのか。
僕は、こう思います。

この鮭が求めていたのは、未知なる世界だったのでは? と。

鮭は、川の上流で生まれ、そして大いなる海へと下って行きます。そして太平洋を一週し、成長して故郷へ戻って来るのです。
戻って来た鮭は、生まれ育った故郷で子供を産み、そこで息絶えます。
つまり、生まれた場所から一週したら、そこで人生(魚生?)は終わり。次の世代にバトンタッチして、そこで全てが終わるのです。

ここで考えます。
これは人間ならではのセンチメンタリズムなのかもしれません。が、僕はこう思ったのです。

この一匹の鮭。それが見たかったのは、『限界を超えた世界』だったのでは? と。

魚に自我があるかどうかは不明ですが、もしも僕が魚だったならば、そして今と同じ位の知識を持っていたならば、きっとこう思う瞬間があるでしょう。


外の世界を見てみたい。


自分の住む世界とは違った、他の世界を見てみたい、そしてそれを知りたい。・・・人間ならば、誰しもが抱く感情でしょう。
きっとこの一匹の鮭も、そう思ったのです。そして、それを実行に移した。自分にはそれが出来る自信もあったし、事実、それだけの能力を持っていたから。
そうして辿り着いた愛別町。そこで彼女(その鮭)はこう思った筈です。

ああ、私はこんな場所までやって来た。他のどの鮭も成し遂げられなかった、大冒険に成功した! ・・・と。

たった一匹だったけれど、他とは違う世界に出会えたのです。それはきっと、自分の遺伝子を後世に残す事以上に、彼女にとって重要な出来事だったのでしょう。
これは人間に喩えれば、自分の体一つで、ロケットも使わずに月の裏側を見て来たのと同じくらいの意味があったのです。

僕は今、彼女に対し、素直にこう言わせて貰います。


天晴れ、見事なり!!!


たった一匹で孤独を乗り越え、未知なる世界を目指した彼女。それを称える言葉を、僕は他に持ち合わせてはいません。
ただ、これしか言えないのです。「天晴れ、見事」だとしか。。。

が、僕は決して、彼女の行動を尊敬はしません。
ええ、彼女の努力や根性は、本来ならば尊敬すべき事だと思います。
が、僕は決して尊敬しません。
理由は、たった一つ。



だって、相手、魚だし(笑)。



僕は駄目な人間ですし、そこまでのバイタリティーはありません。が、どれだけ腐っても、「魚類」に負ける気は無いのです。
それは僕の「人類」としての、最低限の誇りです。
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by crystalgem | 2006-01-30 23:15
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